「学歴はいらない」は本当? “学歴はいらないが1位”という調査の読み解き方
こんにちは!品川区・オンライン 大学受験向け学習塾Dear Hopeの伊藤智子です。
とても気になる見出しのネット記事がありました。
調査会社の日本リサーチセンターが、2020年「現在、必要でないと思うもの」を聞くアンケート調査を実施したところ、「学歴」が1位だったという内容です。
この結果を見て、どのように感じますか?
大学受験生なら「せっかくのいまの努力は、これから生きていく上で意味がなくなるのか」と不安になった人もいるかもしれません。
今日は、こうした情報に触れたときの頭の使い方・受け止め方について、書きたいなと思います。
(ちなみに、こういう小論文のテーマ、ありそうじゃないですか?考えるヒントにしてください。)
「学歴はいらない?」の記事の中身
私が目にしたネット記事には、以下のように書いてありました。
車、生命保険、テレビ(本体)、テレビ放送、本(紙媒体)、学歴、現金、パソコン、資格、マイホーム、メールのなかから「あなたご自身やあなたの生活にとって、現在、必要でないと思うもの」を複数回答方式で尋ねたところ、1位「学歴」(28.6%)、2位「資格」(22.2%)、3位「車」(20.7%)だった。
2020.6.7 msnニュース
性別と年代で分けた結果では、学歴は男女すべての年代でトップ3にランクインする“不人気ぶり”。男女ともに年齢が上がるほど学歴を不要とする傾向が見られ、29歳以下の男性の20.1%だったのに対し60歳以上の男性は40.0%だった。
これを見て、瞬間的に「今の日本で、幅広い年代層の人が、学歴はいらないと思っているんだ…!この先の社会で、学歴はいらないのだ。」と考える人がいたとしたら、「もう少し、自分の頭を使って考えよう!」と言いたいです。
自分の頭を使い、視野を広げて考えよう
私はこんな感じで考えました。
まずは、アンケート調査の実態についてもう少し詳しく知りたいと思いました。ネットニュースには「日本リサーチセンターの調査」とあったので、日本リサーチセンターのサイトを見てみました。
すると、トップページに、今回の調査のことが載っていました。https://www.nrc.co.jp/report/200529.html
サイトを見たら、このアンケートを考える上で大切なポイントがいくつか見えてきたので、順にあげていきたいと思います。
①回答率の中身…回答率1位は「学歴」じゃない!
ネットニュースにも、リサーチセンターのページにも、「学歴が必要ないものの1位」って書いてあるじゃないですか。
でも、最後の1行に、ひっそり(?)こう書いてあったんです。
『全体で最も回答率が高かったのは「この中では必要ないと思うものはない」(32.6%)でした』と。
必要ないものを複数回答で選べる方式であったにもかかわらず、全体の30パーセントを超える人は、「どれも必要だ」と考えたわけですよね。
ここ、重要な情報だと思いませんか!?
「学歴が必要ない」という意見は、“選ばれた選択肢の中では”1位でしたが、そもそも選択肢を1つも選ばなかった人が一番多かった、ということは客観的に知っておかないといけないですよね。
ニュースにするときには、キャッチーな見出し・内容にしないと人が読まないから、大切なこういう部分は削除されてしまうのです。
②アンケート実施日…緊急事態宣言真っただ中
次に気になったのは、アンケート調査の実施日。なんと、2020年4月24日~27日に行われたそうなのです。
その期間は、コロナにより、全国的な緊急事態宣言の真っただ中。
「自分の命」「家族の命」「これからの生活・仕事・お金」が多くの人の関心事となっている非常時の中で、「現在、必要でないと思うもの」を問われたらどうなるでしょうか。
とにかく生きていくうえで必要な「現金」は、「現在、必要でないと思うもの」の最下位になるのは当然ですよね。
それにひきかえ、健康で生き延びることに、目下、もっとも関連の薄い学歴が「現在、必要でないと思うもの」に上位に来るのは当然だと思います。
行われた時期によって、回答は変わってくるだろうなと思いました。
ちなみに、全体の2.6%が「現金」を選んだ要因にも、この時期が関係した可能性があるのではと思います。「お金がいくらあっても健康は買えない」と考えた人もいたかもしれません。(もちろん、「現金」を使わずとも、買い物はカードで十分、と考えた人もいたのかもしれません。)
③11の選択肢…学歴とメールって、比べられる?
車、生命保険、テレビ(本体)、テレビ放送、本(紙媒体)、学歴、現金、パソコン、資格、マイホーム、メール
という選択肢でしたが、それぞれ有形無形で、比較の対象にするのが難しい選択肢とも言えるのでは。
たとえば「メール」と「学歴」。この2つを同じ土俵にあげるのは無謀な気もしました。
④回答者の属性(60歳以上の男性回答者数は、29歳以下の6倍以上!)
全体の1万人ほどの回答者のうち、「60歳以上の男性が2,158人、29歳以下の男性は338人」と、回答者の年齢の割合はアンバランスでした。
注目すべきは、年代別で、もっとも「学歴は要らない」と答えたのは「60歳以上の男性」。つまり。パーセントにしたら、「60歳以上の男性の意見が結果に反映されやすくなる」ということですね。
* * *
以上が、リサーチセンターの情報も見た上で、私が「こういう視点も踏まえてデータを見ることが大事だな」と考えたポイントです。
少々辛口になってしまいましたが、私が言いたかったのは、この調査に対する批判ではなく、特にキャッチーな情報に触れたときに、自分の頭を使って考えることが大切、ということです。
学歴の意味は、一人ひとりにとって違う
ここからは個人的な感想になります。
回答者の1万人は、リサーチセンターのアンケート対象者として、自分で登録する仕組みのようですが、どんな人が登録しているのか、気になります・・・。
それから、「学歴が要らない」と答えた回答者の学歴やお仕事って、どういうものだったのでしょう。ひとえに「現在、必要ない」といっても、状況は様々ですよね。
「学歴はいらない」と答えた人の中には、専門分野(伝統工芸や料理など)で活躍されている方、起業して成功された人もいると思います。
一方で、努力して志望する大学に入り、その知識を生かして仕事をされている人でも、学歴を日頃気にして生きていなかったら、「今の自分にはいらない」とは答えたかもしれません。
それから、たまたま大学には入ったものの、特に勉強せずに卒業し、その“学歴”を生かせていない人もいるでしょう。
こんなことを自分の頭で色々と考えて、データに触れるべきだと思います。
* * *
個人的には、「学歴は、必要な人には必要。要らない人にとっては要らない。それは個人の問題であり、他人が決めることではない。」と思っています。
だって、医者になりたい人は、基本的に計6年の大学・大学院の学びを経て医師免許を取得しないと、医者になれないわけです。
よく聞く「学歴はいらない」という言葉を私なりに翻訳すると、「少し前までの日本社会では、高学歴であれば、就職に有利で、一生の仕事が保証されていたが、今はそうではない。流動性の高い今後の世の中では、学歴があっても、一生の仕事や安泰な生活は保証されない。」ということだと思うんですね。
でも、「だから学歴は要らない」っていう結論になるのって、短絡的だと思いませんか。
「一生の仕事と安泰のためだけを目標して学歴を得ようとするなら、その学歴は必ずしも役に立たないから要らない」という意味だと思うので、そこは理解できます。
でも、そういう考え方・生き方は古いことは、もう若い人の中では常識だと思うんですよね。
ちなみに、「集中して勉強する経験」「一定時間の中で、一定の分野を習得する経験」は、仕事をする上でも役に立ちます。
数学の、物事を筋道立てて考える力など、生きる上で役に立ちます。
自分で立てた目標に向けて一生懸命努力する経験が、自分の力になります。
私自身は、学ぶことは自分の人生を開くきっかけになる、と考えているので、勉強を教える仕事をしています。大学に進学したい人は「自分は大学で学びたいのだ!」と胸を張って努力してほしいし、私も応援したいと思っています。
それでは今日は、この辺で!