伊藤 大幸


2020年 東大理系数学 第6問 屈指の良問

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 こんにちは、
 品川区武蔵小山駅より徒歩4分 学習塾Dear Hope 数学担当の伊藤です。

 2020年度の入試もほぼ終わり、出題された問題も出そろってきました。

 今年の難関大学の入試問題を俯瞰してみると、「数学的な考え方」を試す問題(論証や、実験・図形的考察を行う問題)が多く出題されているように感じました。もっとも、これは今年に限ったことではなく、ここ数年、同様の傾向が続いています。

 したがって、公式と解法パターンを覚えていく勉強だけでは解き切れない問題が多く、また、そのような問題が合否を分けるであろうと思われます。

 この傾向は、今後も続くと思いますし、また、歓迎すべきことだと感じています。というのは、数学の公式などは社会に出れば使う場面はほとんどありません。むしろ、数学を通じて得られる「論理的な思考力」や「ものごとを筋道立てて説明する力」など、理性的な事象の捉え方の方が役に立つと思うからです。近年の(「整数」が教科書に導入されてからの)入試問題は、まさにその方向にシフトしてきていると感じます。

 さて、前置きはここまでにしておき、さっそく今年の入試問題で印象に残った問題についてお話していきたいと思います。

2020年 東大理系数学の出題内容

 今回は、2020年の東大の理系数学についてみていきたいと思います。

 今年の出題のセットは、以下の6問でした。

《第1問》 3元連立二次不等式を題材とした論証問題。

《第2問》 動点Pを含む平面上の4点が作る4つの三角形の面積が特定の条件を満たすときの動点Pの存在領域の面積を求める問題。

《第3問》 媒介変数を用いて表される図形を題材にした微分と求積の問題。

《第4問》 個数の処理と数列の融合問題。(文理共通)

《第5問》 空間内で特定の条件を満たす線分が通過する部分の体積を求める問題。

《第6問》 楕円内の点に対し特定の条件を満たす接線が4本以上存在するための条件を考察する論証問題。

 以上の6問です。

 独断と偏見で難易度を付けると、難しい順に、4>5>6>2>1>3でしょうか。このうち第1問、第2問、第4問、第6問は、解答中に論証(立式して計算するのではなく、文章を主体として論理的に説明を行うプロセス)を必要とする問題でした。6問中4問です!かなり多いですね。

 どの問題もよく練られた良問で、私自身、解いていてどの問題も楽しかったです。

 その中でも特に印象に残った問題は、第6問です。

2020年 東大理系数学 第6問  屈指の良問

 以下、問題を引用します。

 本問は、(1)と(2)の2項から構成されています。一見、(1)は(2)と無関係なように見えますが、(2)を処理する過程で(1)を利用することになります。

 この問題の何が印象的だったのかというと、(2)で問われている事項のうち後半の「rの最大値を求めよ」という問題が論証問題になっている点です。

 一般的に、本問(2)のような最大・最小問題は、立式ができれば解けたも同然で、最小値や最大値の答え自体はおまけのようなケースも多くあります。しかし本問は、後述するように、「これが最大値だろうなぁ」と思われる値(式を展開していくとおのずから見えてきます)が実際に最大値に他ならない、ということを反例を提示することによって立証するプロセスが含まれていました。

 なんと凝った問題なのでしょうか!問題を解きながら、非常に感動しました。

 (2)の解答の概略は次の通りです。

 まず、(Qの接線)⊥線分PQであるから、線分PQの傾きと点Qにおける接線の傾きとの積が-1になる、という関係(※)が成り立ちます。そこで、楕円C上の点Qをsinθ,cosθで、領域D内の点Pをsinα,cosαで、それぞれ設定することにより、上記関係(※)に基づき、rとθとαを含む方程式が得られます。

 この方程式が、αの値にかかわらず、少なくとも4つの解(θ)をもつように、rの条件を追い込んでいけばよいわけです。この過程で(1)の結果を利用します。

 この議論により、rの存在が立証されます。

 さて、問題はその次、rの最大値です。

 (1)では、「A>1のときに…少なくとも4つの解を持つ」ことを示しました。これを記号的に記述すると、

 「A>1」 ならば 「方程式が少なくとも4つの解を持つ」

という命題が真である、ということです。

「方程式が少なくとも4つの解を持つ」 ならば 「A>1」 (※※)

ではありません。

 つまり、A≦1の範囲でも、方程式は4つの解を持つかもしれないのです。

ところが、(2)でrの最大値を求めるには、(※※)が真であることが必要になってきます。

 このことを示すためには、(0<)A≦1の範囲にAを決めると、特定のαに対して方程式が3つ以下の解を持つことがある、ということを、反例を提示して論じなければなりません。この議論が欠けていると、答えが合っていたとしても得点は0でしょう。

良問を解いて数学的な考え方を身に付けよう

 本問は、難問ではありません。しかし、完答には、計算力、論証力など数学の総合力が高いレベルで身に着けていることが必要です。そういう意味で、近年の入試問題の中で屈指の良問だと思います。

 高校生の皆さんには、ぜひこのような良問に触れて数学的な考え方を身に着けていただきたいと感じました。

 そして、日ごろの勉強においては、解法のパターンを習得することはもちろんですが、なぜそのような解き方をするのか、さらには、教科書に載っている定理や公式を独力で導いたり説明したりできるかどうか、このようなことを意識して勉強に取り組んでいただきたいと思います。そうすれば、おのずから、数学的な思考力が醸成されることでしょう。

 ほかにも良問はたくさんありますので、またご紹介していきたいと思います。

 それでは今日はこのへんで。

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