伊藤 大幸


2022 東京大学・理系数学 入試問題レビュー 東大は「その場で考える力」を重視している

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こんにちは。
学習塾DearHope 数学・物理担当の伊藤大幸です。

今回は、去る2月25~26日に実施された国公立大学の入試から、東大(理系数学)のレビューを行いたいと思います。

今年の出題のセットは以下の6問でした。

〔第1問〕
積分を含んで定義された関数の最小値に関する問題

〔第2問〕
解けない漸化式で表された数列を題材にした、公約数などの整数問題

〔第3問〕
3×3の正方形からその3隅の1×1の正方形を除外した領域と、その領域内を放物線の軌道で動く2×2の正方形との共通部分の面積に関する問題

〔第4問〕
3次曲線とその曲線上の法線とが相異なる3点で交わる条件と、それらで囲まれる2つの部分の面積に関する問題

〔第5問〕
z軸を中心軸とする円錐面上を動く点Pと、xy平面上を動く点QとがPQ=2を満たしているときの線分PQの中点Mが通過しうる範囲の体積を求める問題

〔第6問〕
特定の規則によって座標平面上を動く点が与えられ、これがN回の試行後に原点Oにある確率(重複組み合わせの処理による)を求める問題

独断と偏見による難易度は、「(易)1<3<4<5<2<6(難)」と思います。

まず第1問ですが、これは丁寧に微分等の計算を行い、増減表を作成して解答すればOKです。例年、第1問は特別な発想やスキルが求められない平易な問題が出題されていますが、今年もその例にもれず、計算ミスに気を付ければ完答しやすい問題でした

次に、第3問について、この問題は設問文が少々長く、やや題意把握の力を試している雰囲気はありますが、要するに正方形の領域を放物線軌道でいろいろ動かすんだな、という点が把握できれば、あとは丁寧に場合分けを行って領域(実質的には長方形)の面積を計算するのみでした。

このように書くと、第1問も第3問も簡単な問題だったかのように受け取られるかもしれませんが、決してそういうわけではありません。

東大が要求している力の1つに「緻密さ」があると感じていますが、この「緻密さ」に欠けると途中で場合分けを抜かしてしまったり、計算ミスをしてしまったりと、「うっかり」間違えてしまうこともあります。

ただ場合分けするだけ、という問題でもそれを完答するには相応の力が要求されますので、日ごろから正確な議論を積み重ねて問題を解ききる訓練を積むことが必要です。

さて、第4問を見ていきましょう。

この問題は、一見簡単そうに見えるかもしれませんが、解法の選択によって所要時間に差が出るため、思わぬ時間ロスをしてしまった受験生も少なくなかったのではないかと思います。

まず問題を示します。

(2022年 東京大学(理系)入試問題より引用)

本問のような「任意の○○に対して…となる直線ℓが存在する」という表現は、慣れていないと意味を取り違えるおそれがあります。例えば2019年の学習院大学(文系)の第4問などを題材に、きちんと論理的な題意把握ができるように訓練を積んでおくと良いでしょう。

さて、(1)は、点Pの座標を(a,b)、直線ℓの傾きをmなどとおいて、「任意の(a,b)に対してℓとCが相異なる3点で交わるような実数mが存在する」ことを示せばよいわけです。主役は、「実数m」です。この点を見誤ると議論が成り立ちません。

具体的には、直線ℓの方程式はy=m(x-a)+bですから、x-x=m(x-a)+b…(A)が任意の(a,b)に対して異なる3つの解をもつような実数mが存在することを示していきます。

本問について詳細な議論は省略しますが、このことを示すためには、mが極端に大きい値の場合(m→∞)を考える必要が生じます。

このような「極端な値」を持ち出して議論をまとめるタイプの問題は時々出題されており、例えば2020年の東京大学(理系)第1問や、2015年の京都大学(理系)第5問などが挙げられます。

(2)は、3次曲線が(極大点と極小点の中点)に関して点対称な図形であることから、直線ℓがCの変曲点(つまり原点)を通ればよいことに気づけば、解答の道筋が見えてきます。

次に第5問です。

(2022年 東京大学(理系)入試問題より引用)

本問も、東大にありがちな問題なので、難易度としては標準的です。ただし、求積の原理がきちんと理解できていないと足元をすくわれてしまいます。

まず、S(z軸を中心軸とする円錐面)上の点Pのz座標をu(題意より1≦u≦2)とおくと、中点Mのz座標は「z=u/2」となり積分区間が「1/2≦u≦1」になります。

また、体積を求めるために必要な「断面積S(z)」は、Kを平面z=u/2で切断した面積です。体積Vは、この断面積S(z)をz軸に沿って積分すればよく、

となります。

この部分を、動く文字はuだから、と安直に考えて「z=u/2」の関係を無視してしまうと、「du/2」の部分が「du」になってしまい誤答につながります。

では、難易度が高めの第2問です。

(2022年 東京大学(理系)入試問題より引用)

シンプルな式(漸化式)を用いて様々な考察をさせるあたり、東大らしい1問と言えます。

このような問題は、まず小さい数で実験をしてみるのがセオリーです。

まず、数列{a}を5で割った余りの数列を{r}とすると(つまりa=5k+r)、rn+1≡r+1(mod5)という関係が成立します。これをもとに小さい数で実験してみると、次の表のようになります。

したがって、数列{r}は、「1,2,0」の循環であることが言えそうです。このことを数学的帰納法によって証明すればOKです。

続く(2)も、上の表から見えてきた数列{r}の循環性がヒントになります。

まず(1)から、「aがa(=5)の倍数になるとき、n=3mであり、かつこのときに限られる」(m=1,2,…)ということが言えます。

次に数列{a}を26(=a)で割った余りを改めてrとしたときの表を以下に示します。

これより,数列{r}は、「1,2,5,0」の循環であることが言えそうです。つまり,「r=0」となるのはn=4mのとき(らしい)ので,「aがaの倍数になるとき、n=4mであり、かつこのときに限られる」ということが言えそうです。

ここまでの検討結果を一般化すると、(2)で求めるべき必要十分条件は、「nはkの倍数である」ということだろうと推測されます。

このことを証明しましょう、というのが本問です。

そのためには、「aをaで割った余りの数列{r}は『a,a,…,ak-1,0』の循環である」ことを示せばよく、このことを数学的帰納法によって示していきます。

(3)は、(2)での循環性の考察から、a8091をa2022で割った余りがa3(=5)であることが分かります(8091÷2022の余りは3のため)。

すると、「(a8091=(a2022の倍数)+25」となることから、剰余の性質(ユークリッドの互除法の原理)により、(a8091とa2022の最大公約数は、a2022と25の最大公約数に等しいことが分かります。

2022が5の倍数であることは(1)から自明(なぜなら2022は3の倍数)なので、あとはa2022が25の倍数か否かが次の論点になります。

このように、本問はいろいろと証明したり確認したりの作業が多いため、少々時間を要する問題だったと思います。

最後に、第6問です。 これも東大らしい良問でした。

(2022年 東京大学(理系)入試問題より引用)

本問で必要な力は、題意を的確に把握する力です。それ以外は、基本的な計算(重複組み合わせ)で処理できます。

今回の問題設定は、要するに、表が出たら、「右に1」または「左上に1」または「左下に1」だけ移動するということです。ただし、その移動を行うまでに出た裏の数によって、いずれの方向に移動するかが決まります(裏の数が3の倍数なら右、3で割って1余る数なら左上、2で割って2余る数なら左下)。

さて、ここでは(2)について検討してみます。

まず、X200が原点にいるためには、表が出る回数(r)は3の倍数でなければなりません。

ゆえに、kを整数としてr=3kと表せます。

表がr(=3k)回出るならば、裏は(200-3k)回だけ出ます。

200回の試行が終わってX200が原点にいるためには、表が出て移動を行う3k回のうち、k回で右に移動し、k回で左上に移動し、残りk回で左下に移動しなければなりません。

これら「右」「左上」「左下」の各k回の移動は、どのような順序であっても構いません(というより、すべての場合が数えられなければなりません)。

換言すれば、裏が「3の倍数」回出た直後に表が出る事象がk回、裏が「3の倍数+1」回出た直後に表が出る事象がk回、そして裏が「3の倍数+2」回出た直後に表が出る事象がk回、起きなければなりません。

このような事象の起こり方は、次のように考えます。

すなわち、以下のように、(200-3k)個の「裏」を1列に並べると、「表」を差し込むことのできる場所(両端と隙間の[0]~[200-3k])が合計(201-3k)個できます。

これらの場所のうち、[3の倍数]の数字がある場所(67-k個)に重複を許してk個の「表」を差し込み、同様に、[3の倍数+1]の数字および[3の倍数+2]の数字がある場所(いずれも67-k個)にそれぞれk個の「表」を差し込む、と考えます。

[0]裏[1]裏[2]裏[3]裏[4]裏……裏[199-3k]裏[200-3k]

裏[表表]裏裏裏[表]裏[表]……[表表表]裏裏

ではこのような差し込み方は何通りあるでしょうか。

事象の対称性から、[3の倍数]の数字がある場所(67-k個)に重複を許してk個の「表」を差し込む場合の数(※)を考え、これを3乗すればよいですね。よって、(※)の場合の数を考えましょう。

重複組み合わせ、という考え方です。

まず、k個のボールを(66-k)本の仕切りで(67-k)個の区画に分割します。

これら(67-k)個の区画を、左から順番に、[0]に差し込む「表」の数、[3]に差し込む「表」の数、[6]に差し込む表の数、…、[198-3k]に差し込む「表」の数とします。

このように考えれば、k個のボールと(66-k)本の仕切りの順列を、着目している事象に1対1に対応させることができます。

したがって、一列に並んだ66(=k+(66-k))か所の「空席」からボールを配置すべきkか所を選ぶと考え(このとき仕切りが入る場所は自動的に1通りに定まり、ボールと仕切りの並びが完成する)、66(通り)となります。

したがって求める確率は、rが3の倍数(=3k)のとき、(66×(1/2)100と求まりました(rが3の倍数でないときの確率は0です。)

本問は検討事項が多く重い問題でした。

この問題で印象に残ったことは、題意把握ができれば、あとはボールと仕切りによるシンプルな場合の数の計算でしかなかった、ということです。漸化式を立てる必要もないし、細かい場合分けも必要ありません。

だからと言って、上で見たようなボールと仕切りによる場合の数の計算手法を知っていれば本問が解けるかと言われれば、それだけでは足りない(必要条件であるが十分条件ではない)と思います。というのは、本問がそのような「ボールと仕切りの問題」であるということに「気づく」ことができなければ、どうしようもないからです。

この問題に接して、東大は「その場で考える力」を重視しているな、と改めて感じました。 パターンを暗記することも一定レベルまでは必要です。しかし、東大の入試問題の多くは、そのレベルを超えています。ある程度のパターンの蓄積はもちろんですが、合格には「その場で考える力」と、「考えた結果を適切なツールで処理する力」の双方が大切だ と思います。

東大を志望される皆さんは、この「考える力」を養えるよう、蓄積してきた知識を一層深めていっていただきたいと考えています。

それでは今回はこの辺で!

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