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2021年 慶應義塾大学 理工学部(数学)最新レビュー

Posted by 伊藤 大幸 on
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こんにちは。学習塾Dear Hope 数学・物理担当の伊藤です。

今年の受験シーズンも後半に入り,最新の入試問題が続々と速報されています。

そんな最新の入試から,今回は2021年慶應義塾大学の理工学部の数学のセットを取り上げてみたいと思います。

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2020年 東京工業大学 数学 第4問/2007年 慶應義塾大学 第3問
2019年 一橋大学 前期 数学(第3問)
2019年 高1から読める京大理系数学(第2問)

2021年 慶應義塾大学(理工学部)数学

今年のセットは,以下の5問でした。出題数や試験時間は例年と同じです。

第1問 直線の通過領域と,この領域と放物線とが共有点を持つ条件

第2問 整式の割り算とド・モアブルの定理

第3問 さいころに関する条件付き確率と極限

第4問 不等式の証明と,ハサミウチの原理および区分求積法を利用した極限

第5問 座標平面上の異なる2点から直線に下した垂線の足を内分する点の軌跡


どの問題も標準的な難易度であり,難しい問題も簡単な問題もありませんでした。強いて難易度を付けるとすると,簡単な問題から順に(独断と偏見で),

(易)5<1<2≦4<3(難)

といったところです。以下,もう少し詳しく見ていきましょう。

第1問は,  媒介変数tを含む直線が通過する領域を図示し,さらにこの領域と頂点が動く放物線とが共有点をもつ条件を求める問題   でした。
直線の通過領域に関しては,逆手流やファクシミリの原理を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし本問では,丁寧な誘導がついていて,与えられた直線がtによらず通過する定点と,直線の傾きの範囲を順次求めていく(分数関数のグラフを微分・図示して読み取る)構成になっていました。この誘導に従うことにより,複雑な処理を行うことなく答えにたどり着くことができます。

第2問は, 整式の割り算  です。具体的には,複素数αを解にもつ2次方程式が与えられていて,それに基づいて整式の値や,商や余りを求めていきます。問題文には「α+1」「α+2」「α+3」が登場しますが,これらはいずれも極形式で表現しやすい値ですので,このことに着目しつつ剰余の定理を利用するとスムーズに処理できました。

第3問は詳しく後述します。

第4問は,よくある ハサミウチの原理を利用した極限の問題   です。前半の誘導により,被積分関数らしき関数を挟み込む式が得られます。後半では,前半の誘導で得た評価式に含まれている定数aやbおよびxにどのような式を代入すれば本命の式が得られるかを的確に判断することが求められています。

本問に類似した最近の問題としては,例えば2019年の大阪大学(理系・第1問)が挙げられます。この問題も,誘導式から本命の式を得るために,誘導式中の文字をどのように置き換えていくかがポイントになります。また,同年の東京工業大学(第2問)の積分方程式の問題も,文字の置き換えの観点から参考になるでしょう。

第5問は, x軸正方向とのなす角がθの直線が与えられ,この直線に座標平面上の2点(1,1),(-3,1)から垂線を下ろします。   これらの垂線の足を1:3に内分する点の軌跡を求めようという問題  です。

直線に対して垂線を下すときには,正射影ベクトルを利用することが効果的です。本問もその例にもれず,正射影ベクトルの利用に慣れた受験生にとっては容易な問題だったと思います。また,得られる軌跡は円になりますが,その計算過程も教科書傍用問題集に掲載されているような,よくあるものでした。

さて,第3問については,少し詳しく見ていきたいと思います。

まず,問題文を引用します。

(出典:2021年度 慶應義塾大学(理工)第3問)

なぜこの問題をセレクトしたかというと,最近の入試で増えつつある,   題意把握がポイントになる問題だから  です。このような「題意把握」の力を問う問題を,個人的に「国語の問題」と呼んでいます(もちろん,題意把握は問題の入り口であって,正答を導くには確率についての正確な理解と応用力が大切です!)。

本問の場合は,P(B)やPB2(A)という記号の表す確率が,「さいころを何回投げて何回目に何の目が出る場合の確率なのか」を明確にイメージできなければなりません。

(1)のP(B)は,要するに,「さいころを3回投げて,5以上の目が2回,5未満の目が1回出るが,1回目と2回目に連続して5以上の目が出ない」確率です。

つまり,さいころを1回投げて5以上の目が出る事象をS,5未満の目が出る事象をTとすると,「TSS」,「STS」の2通りの起こり方しかありません。分かってしまえば単純ですね。

次に,(2)のPB2(A)は,「さいころを最大で5回投げるうち,5未満の目がちょうど2回出るという条件のもとで, 5以上の目が2回連続して出る」確率です。

「さいころを最大で5回投げるうち,5未満の目(T)がちょうど2回出る」事象には,「TTSS」,「STTSS」,「STSTS」,「TSTSS」の4つの場合があります。

一方,「5以上の目が2回連続して出る」事象には,「TTSS」,「STTSS」,「TSTSS」の3つの場合があります。

ここまで来れば,あとは条件付き確率の定義に従って計算をするだけです。こちらも,意味が分かれば単純です。

(3)は,まず条件付き確率の定義から「P(B)=P(A)」が導かれます。この式の意味は,5未満の目がちょうどk回出る(Tがk回)とき,「必ず」5以上の目が2回連続して出る(Sが2回連続して出る)ということです。この部分の解釈が重要です。

これはすなわち,Tをk個とSを(2n+1-k)個並べたとき,どう頑張ってもSが2回連続して並んでしまうということです。このような状況は,(2n+1-k)個のSを一列に並べたときにできる(2n-k)個の隙間よりもTの数(k個)が少なければ成立し,

「2n-k>k」より,「k<n」。

いまkは非負の整数なので,「0≦k≦n-1」となり,「 K=(n-1)」を得ます。

最後の(4)は,まず,kが0≦k< Kの範囲に限定されているため,

P(A∩B)=P(B

が成立します。よって,P( B)を求めればよいことが分かります。

というわけで,P( B)を求めましょう。ここからが最後の難所です。

題意より,P(B)=P(A)が成立することから,P(B)(5未満の目がちょうどk回出る確率)に対応する事象は,まず(k-1)個のTとr個のS(r=0,1,…k)が並び(但しSは連続しない),これに「TSS」が続いて (5未満の目の後に5以上の目が2回連続して) 終了する,という事象です。

したがって,最後の「TSS」を除いた並びにSがr個現れるとき,Sは,(k-1)個のTの隙間と両端との合計k箇所(下図の∧)のいずれかに配置されればよく,これはk個の隙間(∧)からr個を選ぶ方法に等しいと言えます。よって,SとTの並べ方は 通りになります。

∧T∧T∧T∧…∧T∧T∧

したがって,このときの確率は,

により求められます。

P(B)(= P)は,この結果をr=0からkまで足し合わせればよいから,

さて,この式の∑の部分の処理がポイントになります。これは,2項定理

を利用してまとめるとことができます。つまり,上式において,a=1,b=1/3とすればよいから,

となります。

最後の極限は,いわゆる(等差数列)×(等比数列)の和の問題ですので,定石どおりに処理していけばOKです。

なお,本問のように,二項定理を利用して和の計算を行うことにより確率を求めるタイプの問題は珍しくありません。一例として,学部は異なりますが,同じ慶応義塾大(経済・第2問)で昨年も出題されています。

慶応義塾大は,数学について言えば,理工学部より経済学部の方が問題の難易度が高い年度が多いと感じます(本年は同程度でした)。したがって,理工学部を受験する皆さんは,ぜひ経済学部の問題にも目を通しておかれることをお勧めします。もしかすると,今回のように,類似のテーマが出題されるかもしれません。

先にも述べましたが,近年の入試では、題意把握の力,つまり文章を読み解く国語力が要求されるタイプの問題が増えてきました。難関大を目指す皆さんは,典型的な問題をマスターしていくことはもちろん,長めの問題文から状況を把握し,考察すべき内容を的確に特定する訓練も積んでおきましょう。

そのためには,今回のような難関大の入試問題だけではなく,センター試験や共通テストの過去問も有効だと思います。なぜなら,センター試験等の問題は,2~3ページにわたる長い問題文に沿って様々な事象を考察していく構成になっているからです。とりわけ,確率やベクトルでは,問題の後半で最初の方に導出した結果を利用することも多くあるため,今自分がどのような状況に置かれているかをきちんとイメージしながら問題を解き進めていかないと迷子になってしまいます。ぜひ早い段階から,このような問題に取り組んでおくことをお勧めします。

それでは今回はこのへんで!

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