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2023京都大学・理系数学 最新入試問題レビュー

Posted by 伊藤 大幸 on
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こんにちは。
Dear Hope 副塾長の伊藤です。

先日アップした東大理系数学のレビューを多くの方にお読みいただいています。ありがとうございます!(東大レビューはこちら

今日は、今年実施された国立大の入試から、京大の理系数学について所感など記していきたいと思います。

まず、解いてみた感想としては、「平易な問題と難しい問題とのレベル差が大きい」と思いました。出題された6問のうち4問は平易な問題だった一方、残り2問、特に最後の第6問が京大らしい整数問題で、難易度が高めでした。第5問まで解ければ確実に合格、第6問はおそらく、多くの受験者が解けず合否には影響が無い問題だったのではないかと思います。

まず、今年のセットは次の通りです。

 (第1問) 
2つの小問で構成されていて、問1は定積分の計算問題、問2は整式の剰余に関する問題でした。どちらも標準レベルです。

 (第2問) 
空間内に配置された4点をもとに定義された2直線が共有点をもつという条件の下で、特定の線分の比を求める空間ベクトルの問題。共通テストレベルの平易な問題でした。

 (第3問) 
1個のさいころをn回投げ,すべての出た目の積が5で割り切れる確率と15で割り切れる確率を求める問題。2つの集合の和集合の要素の数を数え上げることができれば容易に解決できる問題でした。

 (第4問) 
ある関数とその関数の逆数との和により定義された関数の最大・最小問題。置き換えにより入れ子になっている関数の値域(全体の関数の定義域)を求めるという標準的な問題でした。

 (第5問) 
一定の条件の下で空間内を動く線分の通過領域の体積を求める問題。京大ではありがちな設定の一問でした。本問については、あとで詳しく見ていきます。

 (第6問) 
cosθが1/p(pは3以上の素数)のとき、θがπの有理数倍になることがあるか否かを検討する整数問題。今年のセットの中で最も難易度の高い問題でした。本問についても、あとで詳しく見ていきます。

独断と偏見による難易度としては、

 (易)2<3<1<4<5<6(難) 

だと思います。

京大では誘導のない出題が多いため、与えられた条件をもとに、自ら筋道を立てて結論まで議論を展開していかねばなりません。もっとも、第1問~第4問は京大にしてはどれも平易でしたので、合格を目指す受験生は落としたくない問題です。一方、第5、6問は手数が多く、何をやったらよいか分からないうちに試験時間が終わってしまった受験生も多かったのではないかと思います。

以下、問題を引用しつつ、コメントしたいと思います。

まずは第5問です。

(出典:2023年度 京都大学入試問題 数学(理系)第5問)

問題文に従って線分PQを描くと、下の(図1)のようになります。

与えられた条件によると、OPとOQの長さは「和が1」を保ちながら変化しますし、(図1)に示す角θも0°から360°まで動くことができます。このように、a(OPの長さ)とθという2つの動く文字(パラメータ)が含まれていますので、これらを同時に扱うのは大変です。そんなときは、「一文字固定」ですね。具体的な処理手順は次の通りです:

(STEP1)
(図2)に示すように、θを0°に固定してしまいましょう。

このように考えてよいのは、θを0°以外の値で固定したとしても、(図1)における3点O, P, Qを含む平面を真正面から見ると、結局(図2)と同じになるからです。θを0°に固定しても一般性を失わずに議論できるということです。

(STEP2)
図2において,aが0≦a≦1の範囲を動くときの線分PQの存在範囲を求めます(図3)。ただし、対称性から、点Qのy座標を0以上としてOKです。

(STEP3)
STEP2で求めた存在範囲をx軸周りに回転させ、体積を求めます。具体的には、x軸に垂直な平面でこの立体を切断したときの断面積を考え(円で、半径は図3に示すr)、これをx軸方向に沿って積分します。この体積が、求めるべき体積Vの半分になります(残り半分は、x<0の範囲の部分)。すなわち,

さて、ネックになるのは、図3に示す赤の境界線をいかにして求めるかという点です。ここでは直線の方程式をaを用いて表し,いわゆる「ファクシミリの原理」(xを固定してaを変化させたときのyの値域を考える手法)を用いて線分PQの存在範囲を求めると良いでしょう。この存在範囲が求められれば、ゴールはすぐそこです。

 次に問題6を見ていきましょう。

(出典:2023年度 京都大学入試問題 数学(理系)第6問)

本問の(1)は易しいのでコメントは省略します。(2)は難問です。時間がいくらあっても解けない人は解けない、という類の問題です。

ただ、難しい問題に取り組むときは、「小さい値で実験をして結果を予想する」ことが有効であることが良くあります。とはいえ、今回はp, m, nという3つの文字が含まれていますが、「n」に注目すると良いでしょう:

まずn=2のときを調べてみましょう。

が成立します。しかし、これは不合理です。なぜなら、左辺はp(3以上の素数)の倍数である一方、右辺はそうではないからです。

なお、n=2に対してcos2θを考えた理由は、

により「cos」を消去することができ、議論しやすくなりそうだからです。

同様に、n=3, 4についても実験してみると,

となり、やはり不合理です。

このようにして、nが5, 6, 7…と大きくなっていっても、同じように矛盾が生じるのではないか、と推測することができます。

この推測が成立するためには、式[1]~[3]のように、右辺が「pの倍数ではありえない数」である必要があります。そういう視点で式[1]~[3]の右辺を観察すると、どうやら2のべき乗(2, 4, 8, 16, 32, …)になるらしいと予測ができ、そこが本問の解決の糸口になりそうです。

このような予測は、ぼーっと式を眺めていても出てきません。小さい値で実験する中で浮かび上がってくるのです。特に整数問題では、このような実験がとても大切です。

さて、以上の推測ができたら、次の手順で解答を作成していきます。

(STEP1)  
cos(kθ)をcosθで表します。実際には三角関数の和積の公式を用いて、cos(k+2)θ, cos(k+1)θ, cos(kθ)の間の関係式(三項間漸化式)を導きます。(1)の設問は、このことに着目させようという意図だと思われます。結論を示すと、

(STEP2)
STEP1で求めた漸化式をもとに、数学的帰納法を用いて以下を示します。

分子のp2は、pとしても構いません。このことが言えれば、

という式が得られ、最初に実験をしたときと同様に矛盾を導くことができます。これにより、本問の結論は、「存在しない」ということになります。

以上のように、本問は、「実験→推測→証明」という手順を踏むことにより完成します。本問の難しさは、推測のプロセスも、何を証明すべきかを見抜くプロセスも、どちらも気づきにくい点にあったのではないかと思います。

今年のセットにおいては、第1問~第4問を確実に得点することがポイントだったと思われます。そのためには、難しい問題にこだわりすぎず、まずは標準的なレベルの入試問題を確実に解ききれるように練習を積むことが大切です。

それでは今回はこのへんで。

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